地震防災連続セミナー
第10回 「リスク・コミュニケーションと災害情報」
講師: 吉川 肇子 (慶応義塾大学助教授・社会心理学)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2004年2月23日(月)17:00-18:30
現代社会を生きる私たちは様々な危険(リスク)と隣り合わせで生活しています。地震など の自然災害もそういったリスクの中の一つです。近年、リスク・コミュニケーションという新 しい考え方が注目されており、リスク情報の送り手と受け手の相互作用が重要であることを我 々に教えてくれます。吉川先生は日本におけるこの分野の第一人者であり、「リスクとつきあ う−危険な次代のコミュニケーション」(有斐閣選書)という本も出版されております。今回 のセミナーでは特に災害というリスクに焦点をあてて、リスク・コミュニケーションのあり方 を語っていただきました。修士論文や卒業論文の発表時期と重なったにもかかわらず、33名 の参加がありました。
慶應義塾大学・吉川肇子助教授。
会場の様子。普段は地球科学や建築工学を専門とする方が多いのですが、今回は心理学関係の方にも多数参加いただきました。
「人々はパニックを起こす」など災害情報に対する誤った認識についての解説もなされました。
セミナーに参加しての感想
そもそも、私は災害や防災に対しては、全くの初心者であり、セミナー に参加させていただく度に自分の無知さぶりを恥じている。しかしながら、 このような初心者にも、広く門戸を開放して下さっているこのセミナーに 感謝している。
この度の、吉川先生のご講演は、災害に対するリスクのみならず、幅広 い視点から、リスクに関して学ぶことができる大変参考になるものであっ た。さて、現在、災害に対するリスクが増大しているという点に関しては、 多くの研究者の一致する見解であると考えている。しかし、吉川先生のご 講演を拝聴して、実は、科学技術の発展(リスクの変化)と社会的な変化 (人々の意識の変化)によって現在、リスク問題がこれまで以上に多方面 で関心をもたれていることがわかった。さらに、その動きは、単なるリス ク情報の一方的な提供ではなく、リスク・コミュニケーションという、リ スクに関してこれまでにはない相互作用的な情報共有を生み出しつつある という事を知った。
今回のお話を踏まえ、災害とリスク・コミュニケーションを考えると、 大学等の研究機関と、実際の被災者の体験や教訓、そして経験をしていな い市民が、相互に情報を交換することが、リスク・コミュニケーションに なるのではないかと考えている。しかしその一方で、この前提に立つと、 吉川先生も東海村の臨界事故を例に挙げ指摘されていたが、多くの災害に おいて、被災経験の風化という問題があるのではないかと感じる。私自身、 阪神・淡路大震災を経験しているので、阪神・淡路大震災に関して考えて も、やはり、年々風化しているように感じてならない。一被災者として、 そしてリスク・コミュニケーションの観点からも、近代都市を襲った震災 の経験を共有し、来るべき次の巨大災害に生かすことが重要であると感じ た。
城下 英行(経済学部 4年)
今回のセミナーでもっとも印象に残ったのは、「災害情報のリスク・コミュ ニケーションについての誤解」という部分であった。
「人々はパニックを起こす」・「警告は短くすべき」・「誤報が問題」 ・「情報源は1つにすべき」・「人々は直ちに防衛行動をとる」 ・「人々は自動的に指示に従う」・「人々はサイレンの意味がわかる」
。これらは全て危機管理者の誤解だという。
私は特に「情報源は1つにすべき」ということが誤解であるという部分 に大変興味をもった。人々の情報欲求は高く、何がおきているのか、どう すればいいのかという情報のニーズは大変高い。その期待にこたえるため には多様な情報源から一貫した情報がでることが望まれているという。1 つではなく多様な情報源があるからこそ、人々は危機を確認でき、その後 の行動を起こせるということであった。
さて日本では、地震情報について、これまで徹底的に多様性を排除し一 元化をめざしてきたように思う。これは地震は発生した一瞬で激烈な事態 になってしまうため、リスク・コミュニケーションをしているヒマなどな いという認識があるからではなかろうか。すなわち日常的に危機モードで 対処しているように思われる。このような流れですすめていって、本当の 危機のときに人々はその事態を認識できるのだろうか?いくつかの情報源 を比較検討することに日常的に慣れておいた方がいいのではないか?そん なことを考えさせられたセミナーであった。
今回のセミナーでひとつ不満があるとすれば、上記の誤解についての具 体的な事例紹介があまりなかったことである。また、きっと例外的事象も あるのだと思う。次回、チャンスがあれば、そのへんの細かい話もぜひ聞 いてみたいと思う。
林 能成(災害対策室 助手)
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