講師: 平嶋 義彦 (名古屋大学生命農学研究科教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2004年11月11日(木)17:30-19:00
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セミナーに参加しての感想
筋交いと家屋を取り巻く布基礎が耐震の基本と教えられていた我々に、 それが木材を腐らせ、中の見えない壁で囲った家屋をつくる、地震に脆 弱にさせ、環境に負荷を 与える要因であるとの指摘は、正直のところ私 には驚きだった。
日本の縄紋文化から説き起こし、寝殿造、書院造と現在に至る歴史の中 に、伝統文化の継承が、じつは日本の気候風土の中で育まれたもので、決 して在来建築方式が、 脆弱な構造とは言えないこと、筋交いを入れろとい われる建築基準法は、昭和25年に欧米から入った建築様式であった。
防災の講演は、国や自治体を叱かり、住民を震えあがらせ、地震に備え させる話が多い。私もそんなことをしてきたような気がするが、これも必 要だが、それだけでは大学の役割はなくなる。
今日の平嶋先生のお話は本当に面白かった。もしかすると、災害対策室 の講演の中で、一番意外で、しかも、根源的な問いかけをしていたような 気がした。こんな視点からの地震防災の研究は、大学でなければできない な,と感心するとともに、反省もしたしだい。ただし、まだまだ私には理 解できないことがあった。筋交い、布基礎を用いない、壁の少ない開放的 な家が、住みやすく、地震に強ければそれに越したことはないが、本当な のだろうかと。そんな試みをされている平嶋先生の研究にとても期待して います。
安藤 雅孝(地震火山・防災研究センター,センター長)
まず、木造住宅の歴史を紐解くことから講演が始まりました。 いわゆる伝統構法で建てた建築物と、現在の建築基準法で決められ ている在来構法で建てた建築物とを比較すると、伝統的な建物には 基礎構造の風通しが良いため、木材の腐敗のしにくいという利点を 挙げられ、過去の建築物の耐震性について新しい知見が得られたと 思います。一方、在来構法の建築物も、基準法が出来た当初は法律 を作る側と建物を作る側との溝が深かったと考えられますが、 現在に至るにつれて十分な耐震性を持つようになったと思います。 伝統構法が「柔」の考え方で、在来構法が「剛」の考え方で地震に 対して抵抗しているのだと感じました。
在来構法の木造住宅については、現在の耐震基準を満たしていな い木造住宅に対して耐震診断や耐震改修が行われています。診断に ついても市町村の予算の関係で伸び悩んでいたり、改修に至っては 住宅の持ち主の金銭的な問題からなかなか手がつけられていないの が現状ですが、民間企業の新しい耐震器具の開発などによって、よ り安価で耐震性のある改修が進むことを期待しています。それと平 行して、住民の防災意識の啓発が進めばいいと考えられます。
藤井 智規(環境学研究科都市環境学専攻,M1)
平嶋先生の講演を聴いて、予想外の内容に驚いた。木造住宅の耐 震性能は上がったか?答えはNoである。
今から2万年前、地球が現在の様な温暖な気候になった頃まで話は さかのぼる。気温の上昇に伴い日本周辺の植生が変わり、人が木造 の住居を作り、定住生活をするようになった。遺跡から出土する住 居跡の調査から、地震による住居被害はなかったと推測されている。 つまり、当時の木造住宅の耐震性能は、ここ2万年の間で最も優れて いた時代であるという意外な発表内容であった。だからといって、 我々が2万年前の生活様式に戻ることは大変難しいです。
耐震性能が上がらなかった原因として主張されている次の2点が印 象に残りました。
「文化」
いつの間にか西洋の文化をそのまま取り込んだために、日本の高温・ 多湿の気候に不都合な住宅建築技術をそのまま取り入れることになっ てしまった。結果的に、木造住宅の寿命や性能を悪化させているとい う問題点が指摘された。
「理想と現実」
大きな災害が起こるたびに進められてきた住宅建築に関する法整備が、 現実に即していないとう問題点が指摘された。行政・建築設計者・住 宅施工者・職人・住民の間に存在する認識のズレを減らすことが重要 であるが、各々の距離がなかなか縮まらないという現実に、木材研究 者としての限界を感じているようにも受け取れた。
現在の木造住宅の耐震性能の限界の一つとして、材料となる木材の 耐用年数の目安が約20年である結果も示されました。阪神淡路大震災 の時に木造住宅が受けた被害について、神戸や淡路島といったその土 地特有の背景を交えながらの解説には説得力がありました。また、愛 知県の木造住宅の耐震診断からは、半数、つまり2軒に1軒が地震によ り大きな被害を受けるという結果をどう受け入れるべきか考えさせら れました。防災という立場から、今から何ができて何ができないか、 具体的にどうすべきかという話を聞くことが出来れば良かったと思い ます。最後に東海地方に住む一市民として、築30年以上の我が家の木 造住宅の耐震診断を受けてみる気になって会場を後にしました。
仮屋 新一(地震火山・防災研究センター,技術スタッフ)