講師: 石黒 耀 (作家)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2005年6月7日(火)17:30-19:00
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セミナーに参加しての感想
たまたま名古屋大学に出張していて、石黒先生のご講演を聞く機会を得た。著書である 死都日本や震災列島は自然災害をテーマとした長編小説であるが、従来の同種の小説と異 なるのは、本当に起こる可能性のあるリアリティーの高い地震や噴火を舞台設定として用 いられている点である。そのため地球科学の専門家からも注目を浴びている。死都日本は 南九州の巨大噴火が現代に起きたことを想定して描いている。そこに描かれている噴火は 現実離れしているようであるが、実際に1万年に1回程度の頻度で起きる噴火であること は火山学的にはよく知られた事実である。震災列島ではより現実的な東海・東南海地震発 生を想定している。そのような本を書いた方の話なので楽しみに聞かせて頂いた。
宮崎で過ごした学生時代、趣味で植物を観察しながら火山にも興味を持ち、火山のすご さに魅入られた話。歴史的にも火山噴火や巨大地震が歴史に大きな影響を与えた可能性の 指摘など興味深い話がつづいた。例えば、1812年のインドネシア・タンボラ火山の噴 火では高緯度で食糧危機が発生し、列強が植民地支配を強めたが食料と一緒に感染症も持 ち込むことになり、ひいては日本でのこれら流行の原因になったとか、1923年の関東大地 震の影響で日本は不況に陥りそのまま戦争に突入していったとか、さすがと思わせる話が 続いた。自然現象と社会との関連をここまで広くとらえて話が聞ける機会はなかなかない。 次の作品が楽しみである。
山岡耕春(東京大学地震研究所,教授)
私は活字が得意でなく、ほとんど小説などの本は読まないけれど、『震災列島』が発売 された当初、知り合いからすごいリアルと勧められて読んでみると、本当にリアリティー のある表現で印象に深く残っていた。今回その著者である石黒先生の講演ということで防 災アカデミーに参加した。
石黒先生が小説を執筆するに至った経緯や、兵庫県南部地震の前に当時はとてもめずら しい地震保険に入っていたなどとても面白くお話を聞かせていただいたが、特に印象に残っ たのは『戦争で年間9千人の国民が死ぬのも、福祉が不十分で9千人が生活苦で自殺する のも同じ』、『自然科学上の問題を知らない行政』という言葉だった。私は学生という立 場の一方で、民間会社で行政の方々と地震防災関連の仕事をし、行政の方とも少なからず 仕事上で関わりがある。そういうしがらみがあるからではないが、十分不十分の議論はあ るとしても、私は行政の方は可能な限りがんばって取り組んでいらっしゃると思っている。 しかし『地震の対応が不十分で9千人の国民が死ぬのも同じ』なんてことにならないよう、 行政と関わりを持つ私も日々しっかりと取り組まねばならないと身の引き締まる思いがし た。
講演を聞くことができてとてもよかった。社会に対する責任をしっかり胸に秘めて、日 々取り組んでいこうと思う。
高橋広人(環境学研究科都市環境科学専攻,D2)
今ちょうど読んでいる本が、「死都日本」であり、著者の石黒先生の講演に興味を持っ たので参加した。講演を聴いていると、火山の噴火や地震によって日本が滅ぶというのは、 現実にありうるということが頭の中でイメージできた。また、「死都日本」や「震災列島」 を出版した背景も色々と説明していただいて楽しく聞くことができた。講演で特に興味を 持ったのは、自然災害と社会災害は関係しているという話で、「今の日本では原発・大都 市などの存在により、局所的災害が大災害に発展する。それだけでなく、大災害が原因で 食料・石油などの不足から戦争が起こり、大量の戦死者が出る危険性がある」という指摘 には感心し、大災害によって起こりうる間接的な被害は予想以上であることに驚いた。ま た、過去の大災害によって実際に間接的被害が拡大していった話はとても興味深く、特に 「地球科学を無視した歴史認識をしてはいけない」という言葉が記憶に残った。この講演 を聞いて今の日本に危機感を持った人は多いと思うので、石黒先生には今後とも執筆活動 やこのような講演をがんばって続けて行って欲しい。また、自分から動く「自助」の重要 性を認識できたので、これから自分自身ができることを考えていきたい。
山室友生(環境学研究科地球環境科学専攻,M1)