第11回 「成熟した自然災害観をはぐくむ :火山文化の視点から」

講師: 藤井 直之 (大学院環境学研究科教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2005年7月19日(火)17:30-19:30

 


 

 

講演者の藤井直之教授。1995年から2004年までの10年間にわたり、名大の地震火山研究センター長として中京地区の地震火山研究をリードされてきました。
今回は講演後に30分の質疑応答の時間があり、その中で理解を深めることができました。

 

経験は十分生かされているか
誰が減災文化を創造し熟成するのか
次世代の人たちにどう体得してもらうか

 


セミナーに参加しての感想

藤井先生は今年度で退職され、私も9月で名大を去るので、私にとっては名大で 聞く藤井先生の最後の講演である。その意味もあり、またセミナーの冒頭の紹介 であったように、藤井先生は驚くほど広範囲の知識で我々をいつも驚かせてくれ るが、普段するような科学の話とは違った内容をいかに料理するかの興味もあっ てセミナーに参加した。そんなことから、今回は、いつもよりじっくりと話を拝 聴させていただいた。
語り口はいつのも調子であったが、いつもとは違って話が発散せず分かりやすい 内容だったと思う。火山災害を軸に、災害文化を如何に活きた形で継承し、減災 文化を育てるかという、講演内容と理解した。議論の中で出てきた、災害を如何 に自分のこととして考えられるようにするかと言う問題で、テレビ報道などで地 震や火山災害のリアルな様子がいち早くお茶の間に届けられるようになり慣れが 生じているのでは、という問題には、今後対策を講じる必要があると感じた。
平原和朗(環境学研究科地球環境科学専攻・教授)

学生の頃に、福島県の磐梯山の麓で一般向けに地震と火山の研究を紹介する 機会があった。その時に来た方から、祖母から聞いた話というのを聞いた。
「お茶を勧められたら飲んでいけ。飲んでいかないと噴火に巻き込まれるぞ。」
これは1888年の磐梯山の噴火にまつわる話で,噴火が朝の8時頃であり,これから農作業を 始めようかという時間に発生した大災害らしい伝聞だった。地域に大災害が発生 すると、それを生き抜いた人々の逸話が残される。それらは時間とともに風化して ゆき、必ずしも未来の類似の災害では生かされない。今日の講演は火山災害を例に、 来たるべき災害にどう対処するか、どう備えるかについてのものであった。 近年幾つかの火山で、来たるべき噴火に備えたハザードマップが作られたが、 1990年代前半までは備えること自体が忌み嫌われていたと言う。しかし他の地域の 災害を教訓として、次第にハザードマップが受け入れられるようになって来た。災害 の軽減のためには、このような科学者と行政による取り組みの他に、被災する主体 である住民、情報を伝えるマスメディア、この4者の連携が必要であることが強調 された。住民の面では災害文化を受け継ぐ教育の問題、地域生活共同体の問題を 考えさせられた。まだ連携への取り組みは始まったばかりで、多くの試行錯誤が 必要な問題であると感じた。講演の結びで引用された寺田寅彦が言う「正当に怖が る」ことが出来るように、知見を広めてゆきたい。