第22回 「火山と共生する社会 -富士山を例として-」

講師: 小山 真人 (静岡大学教育学部・教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2006年9月19日(火)17:30-19:00



小山真人先生。

今回の出席者は63名でした。積極的な参加に感謝します。

ハザードマップの作り方からその活用方法、そして火山との息の長い付き合い方という話が展開されました


セミナーに参加しての感想

火山対策は観光業者などとの戦い・・・日本の火山災害対策がすすまない現状の典型例 が、富士山のハザードマップつくりだったとは驚嘆だ。建設省富士砂防がまとめた過去の 富士山の噴火についての資料が発表できなかったこと、さらにNHKが報道しようとする のに当時の山梨県観光連盟会長(後の知事)が横槍を入れて妨害したことなど、火山防災 への思いの強い小山さんだからこそのお話だった。
私も九州で阿蘇山や雲仙普賢岳の火山での報道にかかわり、観光で生計が成り立つ人た ちにとって、火山が安全な観光地であることがいかに重要かは実感して来た。温泉の恵だ けではなく、危険と隣り合わせだからこそ余計に観光地としての価値も上がる。しかし、 自然はいつも恩恵だけをもたらしてくれるのではない。猛威をふるって襲い掛かってくる。 そのとき、人々の安全を守っていくには過去の歴史の情報や、ハザードマップなどの情報 はいたって重要だ。もっともの話である。
一方、火山地帯において観光で生計を立てている人たちの多くは零細業者ばかりで、少 しばかりの観光客の減少でも大きな影響をこうむるのも事実だ。事実を覆い隠してまでも 生計を守りたいという、非常に短絡的な意見がまかりとおってきた事実を何度も目にして きた。日本の社会がまだまだ未成熟なことを物語っている。
小山さんの指摘だと、伊東市では避難所マップしか市民に配布せず、ハザードマップは 配布していないという。行政として正面から防災と観光の両立を探る動きをすべきなのに、 どうしたものかとの思いがつのる・・・
富士山の過去を知るという自然科学としての話も貴重だったが、いかに災害に立ち向かっ ていくべきなのか、社会派科学者としての小山さんの熱い思いに感激。ジャーナリズムよ 本来の仕事をしろ!と激励された2時間だった。
武居信介(中京テレビ,報道部デスク)

富士山と聞けば美しい円錐形をした火山を日本人誰もが思い浮かべるだろう。しかし富士 山は約2500~2800年前にはツインピークの山だったと言われたらどうだろう?私はこのこ とを知らなかったため、大いに驚いた。きっと会場の多くの方も驚かれたのではないだろ うか。山の形など変わるものではないという根拠の無い思いが我々にはある。それはあく まで人間の生きている時間の中でだけの常識にすぎない。富士山に限らず、火山は噴火を 繰り返す中で、成長と崩壊を繰り返して形を変えていく。長い歴史の中では富士山は常に 円錐形をしているわけではないのだ。形の変化だけではなく、火山は長い歴史の中で様々 な顔を我々に見せ、そのなかには当然恵みもあり,時に災害を引き起こすものも含まれる。 恵みと災害が表裏一体のものもある。人命をあっという間に奪う火砕流は大変に怖いもの だが、その堆積物によって人間の住める開けた土地ができる。長い時間スケールの中で火 山の恵みや災害と言うものをとらえていく必要がある。ただ危ないぞと危機感を煽ること ではなく、火山を理解することが真の防災であるという小山先生の信念が講演から伝わっ てきた。
小山先生は富士山ハザードマップの製作についてのお話に多くの時間を割かれた。ハザー ドマップの製作は、根気の要る地道な作業を延々と積み重ねて作られた事を知った。一つ 一つの加害因子に対して現地調査やシミュレーションが行われている。いかに分かりやす く住民に伝えるか、自治体での防災に役立つ形にするか表現方法にまで注意が払われてい る。それらの情報を盛り込んで最終的に作られた一枚のポスター状のハザードマップは、 大変な苦労が背後にあるのだと感じた。火山が噴火するまで埋没させておくのではなく、 火山の理解や防災教育に使っていってこそ、ハザードマップに注ぎ込まれた多くの努力を 真に生かすことになると思う。
村瀬雅之(環境学研究科地球環境科学専攻,D3)


名大トピックス(2006年10月号, No.161)に掲載されました。PDFファイル