講師: 海津 正倫 (名古屋大学大学院環境学研究科・教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2007年2月20日(火)17:30-19:00
88名の参加者がありました。 |
海津正倫先生。 |
講演後はかなり専門的な内容に踏み込んだ質疑応答がなされました。 |
セミナーに参加しての感想
もう30年近くも前になるが、学生が陸上での津波のシミュレーションを行い、避難のあり方などを議論 しようとしていたのを聞いたことが有る。その手法は現在から見ればかなり初歩的なものであるが、そのと きの印象でも細かい地形や大きな建築物の配置が津波の進行に影響するらしいということであった。今回の 講演で、実際に微地形などが津波の高さや進行に強い影響を与えることを改めて知った。
ところで、今回多くのビデオ映像が紹介された。こうした映像を見るだけでも津波というものの性質や恐 ろしさの理解が進むであろうと思う。ただ、これらの映像を見る度にいつも思うことであるが、実はもっと 多くの人がビデオカメラを津波に向けていたため(それゆえもっと恐ろしい津波の状況に出会っていたと思 われる)逃げ遅れて亡くなったのではないであろうか。その意味で、実際の津波は残された映像よりさらに 恐ろしいものなのではないだろうか.また、「絶対に津波の映像などを撮ろうと思うな」という宣伝も必要 なのではないかと考える。ただ,実際にはこうした映像の価値は大きいという悩みもある。
それに代わるものとして、陸上でどの時刻にどこまで浸水し、波高がどう時間変化したかを記録する、映 像付き「陸上津波記録計」というものが有っても良いのではなかろうか。強震の研究と予測に強震計記録が 威力を発揮するように、こうした陸上津波計も役に立つのではないか。来るべき東海・南海地震津波にそな えて多数展開しておけば良いのではないか、などと考えながら迫力のある講演を聞かせていただいた次第で ある。
古本宗充(環境学研究科地球環境科学専攻・教授)
今回の講演では、現地で集めた被害の痕跡の写真、衛星画像、津波襲来時に撮影されたビデオ映像などが 多数紹介された。これは、バンダアチェにおける津波被害の特徴を1時間ちょっとという短時間に整理され た形で一通り知ることができ、大変有意義であった。そして私にとっては、防災講演のあり方について再確 認する機会にもなった。
多くの防災講演では、最も悲惨な場所の被害状況を見せて、市民を脅し啓蒙するのが常套手段であるが、 今回の講演は違った。ひとつひとつはバラバラに見える「素材」を、海岸線からの距離、津波が襲来した時 刻、土地条件という3つの軸で整理して、激烈な被害が出た海岸線付近から全く被害が出なかった場所まで、 災害発生の様子をたいへんわかりやすく提示していた。このようにすることで、災害の空間的な広がりがわ かり、冷静に津波の恐ろしさが理解できたように思う。
また、講演内容に説得力があったのは、講演者が「自分の目で見てきた」と自信を持って解説されていた ことも大きかった。建物に残された津波高さの痕跡を調査することに加え、津波襲来時のビデオ映像が撮影 された地点を衛星写真で丹念に探しだして地図上にプロットするという一見地味な作業が組み合わさったこ とにより、場所ごとの被害の様子の違いが明瞭に示されていた。また、その被害が発生したのが、地震発生 から何分くらいたってからかを強調しながら講演を進めていたのも新鮮であった。これにより、もし自分が この場所にいたならば、避難する時間的な余裕がどれくらいあったか、どこへ避難すべきであったかという ことをリアルに想像することができたように思う。
津波という現象そのものは、地震に伴う海底の変動による海水の移動というように単純に理解できる。物 理学的なテーマだと思えば、割合単純なものであろう。だが、災害という視点にたてば、海岸付近の土地利 用や人の住み方によって、規模は大きくもなれば小さくもなる。更に災害後に起こった様々なことも考えれ ば、相当に複雑なことが起きている。自然現象としてだけでなく、人間の活動も含めて「津波」とその災害 を理解することが必要なのだと感じた。個々の専門分野できちんとした研究をして、それをまとめて理解し て地球規模で津波に備える知恵として共有していけるよう、私も微力ながら努力していきたい。
林 能成(災害対策室・助手)