講師: 高橋 誠 (名古屋大学環境学研究科准教授)
場所: 環境総合館1階 レクチャーホール
日時: 2008年2月18日(月)18:00-19:30
今回の出席者は84名でした。 |
名古屋大学・高橋誠准教授。 |
名古屋大学の田中重好教授による解説もありました。 |
セミナーに参加しての感想
私は、2007年12月初旬に、高橋誠先生、田中重好先生をはじめ名古屋大学の研究者と一緒に、初めてスマトラ地震津波 で最も被害が大きかったインドネシア・バンダアチェ地区に調査に行きました。これまでスリランカとタイを訪問し、津 波被害状況を調査してきましたが、今回の調査では、津波災害3年後の被災地域の復旧・復興状況を目の当たりにするこ とになりました。セミナーでお話がありましたように、道路や港といった交通インフラがある程度整備されつつあり、 また住宅復興状況も進んでいることがわかりました。一方、高橋先生が強調されていたように、災害地域に多くの住宅 が建設されたにもかかわらず、住居者がいないまま老朽化する住宅が多く存在していることも判明いたしました。高橋 先生は、この原因を、住宅復興のプロセスと被災地支援の構造(物流の流れ)から考えるとともに、「住む人・住まな い人」と「住める住宅・住めない住宅」の関係を解き明かしながら、わかりやすく解説いただきました。
さらに、土地に対する地元住民の考え方の変化が地域の利用・管理の秩序の崩壊に大きく関連していること、復旧・ 復興に関わる諸問題の対応の遅れに対する政府への不信感が増大していることなど、日本での報道情報からは把握でき ない現地の状況を、4回にわたる現地調査の結果と経験に基づき、説明していただき、大変興味深く拝聴させていただ きました。また,高橋先生は「バンダアチェにおける津波災害の復旧・復興で何が問題だったのか、未だ十分に特定で きていないが、スマトラ地震津波災害は日本の防災・災害支援のあり方に大きな影響を及ぼすため、しっかり議論する 必要がある」ともおっしゃっており、私も同感いたしました。
高橋先生がセミナーの最後でおっしゃった「災害後、社会の(構造的)矛盾が見えてしまう。これが災害研究に惹か れたわけです。」といった言葉は大変印象的で、感銘を受けました。私は、海岸工学を専門に、これまで減災・防災を 目指した現象解明を軸に研究を行ってきましたが、これからは地理学、社会学、経済学など多面的な観点から防災のあ り方を考えなければいけないと痛感いたしました。長時間にわたり,貴重な講演をありがとうございました。
川崎 浩司 (名古屋大学大学院工学研究科社会基盤工学専攻・准教授)
インドネシア・アチェ州における住宅復興の様子を調査し、災害復興の問題点を浮かびあがらせ、そこから日本の 災害支援は何を学ぶことができるだろうかと論じた高橋先生の研究は、災害研究を志す地理学の学生にとってまさに お手本となる研究である。
本講演では話題に上らなかったが、高橋先生は本研究を進めるに当たり、現地で数百人に聞き取り調査を行ったそ うだ。数十人への聞き取りで結論を出してしまおうとする学部生からすれば、数百人への聞き取りを行ったが、「ま だ研究を始めたばかり」とおっしゃる高橋先生には圧倒されてしまう。高橋先生は本当に研究に対して情熱を持った 研究者であると実感させられる。
自然の力は強く、時に人間は自然の力に負けてしまう。自然の力に負けた後に、人間はどのように立ち直っていけ ばよいのだろうか。もしかしたら、何とか自然に負けない方法があるのだろうか、ということを考えるのが人文社 会科学から災害を研究することであると本講演から学ぶことができた。高橋先生には今後も是非、災害研究を行う 地理学者として日本の防災・災害復興をリードしていただきたい。高橋先生の研究で日本のみでなく世界を災害から 救っていただきたい。
畠山 和也 (名古屋大学文学部地理学専攻2年)