『防災アカデミーを聴講して』
次の南海トラフの巨大地震が近づいておりその対策が必要であることがマスメディアなどによって叫ばれるようになって久しい。今回の田所先生のご発表は科 学者がどのようにそれに立ち向かっているのかをわかりやすく説明してくださり、その研究成果が南海地震の予知や予測に大きく貢献し我々を守ってくれること を我々に予感させてくれた。ご発表の中でまず田所先生は我々がテレビなどで見るGPSで測られた日本列島の変形や南海地震発生時の強震動予測が、実は予測 をする上で最も重要な震源近くの海底におけるデータが不十分であることを示され、次にそれに対する先生のご研究の原理と方法を説明し、その難しさと苦労 話、成功した具体例をわかりやすく話してくださった。GPSなどで使われるような電波などはその波が水中で減衰してしまうために海底の位置を特定するため には音波を使うことになる。
田所先生のグループは競艇場などで沈めたセンサーと水面との交信から位置を測量する実験をくり返しながら、10年以上をかけて、海底に沈めた音波 を発信受信するステーションと海上の船との交信から数センチの精度で海底における位置を測量することに成功した。その経緯やいよいよ設置した熊野沖と駿河 湾で地震が発生し、その二つの地震の地震によって生じたずれを計測することに初めて成功したときの興奮など、こちらも引き込まれる思いで聞かせていただい た。「音」という我々の身近な現象を操りながら、一般人にはどこか遠くおどろおどろしい「海溝型地震」に立ち向かう課程はまさに科学の醍醐味を実感させ、 多くの受講者が興奮して聞くことが出来たのではないかと思う。田所先生によれば、この観測方法などを整備することで地震の前兆現象を捉えることも可能にな るかもしれないといい、今後の研究の発展に注視していきたいと思った。最初、プロジェクターの不調などのアクシデントがあったものの田所先生のお話は、一 部難解な内容であったにも関わらず、先生の軽快な関西弁がそれを中和し、会場は新たな知識を得た満足で満ちていたことも付記しておきたい。
松多 信尚
(地震火山防災研究センター研究員)
講演:渥美公秀(大阪大学大学院人間科学研究科教授)
日時:2010年5月24日(月) 18:00-19:30
場所:環境総合館1階レクチャーホール